商品開発の支援をしていると、「どういう流れでやればうまくいくのか?」とプロセスの質問を受けることがよくあります。新製品の開発となれば部署を横断して多くの人が関わりますし、進行を気にするのはよくわかります。
しかし、プロジェクトを円滑に進めるためにより重要なのは「どうやって進めるのか」という流れではなく、「誰の」「何のため」につくるのかという目的・方向性です。
これがないと、せっかくのアイデアを十分に活かせず、場合によっては途中でプロジェクトが頓挫してしまうこともあります。
商品開発のプロセス
商品開発の打ち合わせで、主語が顧客になっていないケースが少なからずあります。しかし、面白い新商品や売れている商品は共通して、買う人の姿が明確です。だからこそ、「誰の」「何のため」につくるのかという目的・方向性が大切なのですが…その前にまず、商品開発のプロセスを整頓していきましょう。
新商品の開発でも既存商品のリニューアルでも、基本的には次の5ステップを経て、完成に至ります。
1.方向性の決定 ――「誰の」「何のため」?
関連部署の人たちを集めてミーティング形式のワークショップを実施します。企業の規模にもよりますが、商品開発の部署だけでなく、販売や広報、製造など、この先関わる部署の人が一人でも多く参加するのが理想です。与えられたテーマに関して、参加者それぞれが考え、付箋を使うなどして意見を出し合います。
「自社の強み」「今後やっていきたいと思うこと」「自社のコアユーザー像」など、テーマはさまざまです。たとえば、女性向けの化粧品を開発するというのであれば、その女性はどんな人なのか? 年代は? どんな肌悩みをもつ人なのか? こうしたことを具体的にアウトプットしてみんなの合意を形成し、「誰の」「何のため」の商品なのかを明確にし、共通認識としていきます。
2.インタビュー ――「なぜ?」を繰り返す
ステップ1で「誰の」「何のため」という方向性を決めたものの、まだこれは社内的な想像にすぎません。それ
を、実際に確かめるため、想定したペルソナへのインタビューを行います。このとき重要なのが、ごく一般的なユーザーではなく、既存商品や競合商品のヘビーユーザーや独特の使い方をしている人に話を聞くことです。
平均的な人に話を聞いたほうが、広いニーズをすくえるのでは?と思うかもしれませんが、こうした極端な顧客――「エクストリームユーザー」から斬新なアイデアが出てくることがあるのです。
モノを使う理由を論理立てて考えている人は少なく、感覚的なので、インタビューは簡単ではありません。角度を変えて話を聞いてみたり、生活スタイル全般を観察したり、その人のクセを見たりしながら、「なぜ?」を繰り返し、リサーチをしていきます。
デザイン思考でヒット商品を生み出す ~誰かのこだわりから生まれる商品開発~
3.具体化 ――コンセプトの決定
インタビューの内容を踏まえ、ここで商品コンセプトが固まります。ステップ1と同様、ワークショップを行うこともあります。最初の骨子となるコンセプトシートを作成します。
4.プロトタイプ制作⇄検証 ――素早く何度でも
具体的にどんなモノにするのか、クリアすべき課題は何なのか、まずは作ってみます。想定しているペルソナ像に近い人に使ってもらい検証し、問題点を改善する。これを繰り返します。
プロダクトデザインには、サイズや形、色などのバランスがあります。このサイズにあった形があり、その形にあった色がある。サイズや形、色のどこかを修正すると他も直すことになり、一からやり直すことになにもなりかねません。開発コストがかかってしまい、結果、「ここまできたのだから、変えられない」ということになってしまいがちです。
理想を言えば、1個の改善につき1検証をしたいところです。しかし、どうしても費用や時間的な問題があり、検証を1〜2回しか行わないというケースが少なくありません。そうした場合、社内にいるペルソナ像に近い人に依頼し、小さな検証を素早く繰り返すなど工夫をしてなるべく、数多く行ってきます。
5.完成
商品開発は以上、大きく5ステップで進みます。ステップ1では「誰の」「何のため」が明確になるまで何回も話し合いますし、ステップ4の検証についても許される限り、繰り返します。このあたりぐらいから、完成した商品をどうやったら多くの人にちゃんと届けられるかというプロモーションを考えはじめます。
ステップ1で、関係部署が多く関わったほうがいいと述べましたが、広報が最初から参加していると、商品のストーリーや価値を理解しているので、適切かつ手法にとらわれないプロモーションを展開することができます。

「誰の」「何のため」に時間をかける理由
5つのステップの中でもっとも大切なのが、ステップ1、「誰の」「何のため」のものなのか、方向性の決定です。BtoCの商品であろうと、BtoBの商品であろうと、商品開発の第一歩はどんな問題を解決したい商品なのかを明確にすることにあります。ステップ1では、その方向性とそこに宿る価値を徹底的に詰めていきます。
なぜなら、発売に至るまでの過程で、この「誰の」「何のため」がどうしてもブレてしまうからです。当然のことながら、企業活動には売上目標も期限もあります。プロジェクトが具体化していくにつれ、社内政治的なものがどんどん入ってきます。「原価率を考えると…」「社内の体制上…」と、さまざまなノイズが入ってきて、検証の段階になると、落としどころを探ることになります。
しかし、先ほど指摘したように、「誰の」「何のため」が明確になっていれば、絶対に妥協してはいけない部分が崩れることはありません。だからこそ、最初の段階でしっかりと固めておくのです。スタート時に時間をかけて、「誰の」「何のため」のものなのか、ベクトルを一つにしておくと、後半になってスピードが落ちることがありません。
「ワークショップ」でみんなで決める
ファーストステップを、ワークショップ形式でみんなで話し合うというのも重要なポイントです。日本の商品開発の会議でよくありがちなのが、偉い人の声が大きく、周囲も忖度をしてしまい、結果、偉い人が作りたいものになってしまう、ということです。
これでは、顧客を主語にした商品開発・サービス開発はできません。どんなに偉い人でも、役職に関係なく一つの意見として扱うことが重要です。立場を越えて自分の意見を言うというのは、日本人の苦手なところでしょう。このとき、我々のような第三者が入ることによって、役職や年齢など一切忖度せず進行することができます。
会議ではありませんので、反対意見も受け入れていきます。むしろ、意見の対立をみたポイントにヒントが隠されていたりします。
よく見られるのが、年配の方と若い方で考え方が異なることです。単なる世代間ギャップとして片付けずに話を突き詰めていくと、若手は今の時代感から見ていて、一方の年配の方は経験値に重きを置いていたりする。どちらかが正しいのではなく、どちらも正しい。それらの意見を同じテーブルに出すことが大切です。
デザイン思考の考え方の一つに「多様性を活かす」ということがありますが、まさに、さまざまな意見が思考の幅を広げ、発想を豊かにしてくれます。また、ワークショップを通じてみんなで決めると、個々人のモチベーションが上がるというメリットもあります。
<基礎>デザイン思考とは?ユーザーへの「共感」からはじまる商品開発のプロセス
いかがでしょうか?商品開発には「誰の」「何のため」につくるのかという目的が重要であり、そのためには、まずみんなで意見を出し合い方向性を明確にするーー。当たり前のことのようで、日本の企業には意外と難しいことのようです。これまでのやり方を変えていくことは大変ですが、変わらなければ、誰かに強く求められるものを生み出すことはできません。
ネオマーケティングは、こうしたファーストステップでのワークショップから、ペルソナへのインタビュー、コンセプト固め、そして完成後のPRや広告戦略まで、モノをつくる以外の部分すべてをご支援しています。
