昨今、商品開発や経営スタイルなどビジネスシーンで注目を集めている、「デザイン思考」、「デザインシンキング」というワードがあります。一般的にデザインという言葉を聞いてイメージするのは、商品の形をつくったり、パッケージのイラストを描いたりというようなことではないでしょうか?
デザインというものは芸術的なセンスが求められるものであり、感覚的なものだと思っている方も多いと思いますが、実は思考プロセスを意味する用語で、商品開発に活用することができます。
本記事では、デザイン思考の意味とプロセス、マーケティング(主に商品開発)での活用方法について紹介します。
デザイン思考とは?
デザイン思考とは、シリコンバレーで誕生したデザインファーム「IDEO」が提唱した考え方で、IDEOは「デザイン思考とは創造的な問題解決のためのプロセスである。」と定義しています。
つまりデザイン思考は、感覚・芸術としてのデザインではなく問題解決のための思考法だということです。
ビジネス領域において、企業が様々な場面で迎える問題の解決策や、製品開発のヒントのために役立てられています。これが近年ビジネス領域で注目されるようになった理由のひとつでもあります。
また、デザイン思考は具体的なソリューションを指す言葉ではなく、デザイナーの思考方法そのものだと言われています。ここでのデザイナーとは、パッケージデザインやイラストを描くような職種にとどまらず、顧客の体験をデザインする人など幅広く指します。
顧客がどのような体験を求めているのか。顧客にとってどのような価値を提供すればよいのか。そしてその価値をどのように商品やサービスに落とし込むか、、、、、
デザイン思考とは、それら顧客の体験を最適化しようとするマインドプロセスのことです。
もっというと、デザイン思考はイメージや感覚的な右脳的思考と、ロジカルに考える左脳的思考の両方を組み合わせるハイブリットな思考法です。例えば、、、
- たくさんのアイデアを出すフェーズ(発散)
- 出てきたアイデアを評価するフェーズ(収束)
のように分けて考えます。
前者で必要なのが、文字だけではなく五感や事象・感情などあらゆる情報をインプットし、あらゆる形でアウトプットする右脳的思考です。
後者で必要なのが、実現可能性などを加味したうえでアイデアを論理的に評価し選ぶ左脳的思考です。
この両極の思考を何回も行き来する必要があるため、ロジカルな考え方だけでデザイン思考の形だけをなぞるだけではうまくいかない例が多いのです。
デザイン思考とアート思考の違い
デザイン思考と混同されやすく、同じく近年注目を集めている「アート思考」という用語があります。
一見すると同じような印象を持ち、どちらも問題解決のためのプロセスという特徴を持っていますが、視点が異なります。
上記で紹介したように、デザイン思考とは「客観的(消費者や市場)の視点から共感を得て問題解決をする」もので企業のプロダクト/サービス開発、リブランディング、経営などに役立つ思考です。
対して、アート思考とは「様々な情報の中で主体的な視点から自分なりのアウトプットをし、その上で共感を得る。」もので、アート作品、伝統工芸の再興など芸術的な分野で多く用いられます。
デザイン思考は客観的な視点から、アート思考は主観的な視点からそれぞれアウトプットをだしていくという点で、思考方法は真逆となるものです。
デザイン思考の5つのステップ
次に、デザイン思考を実践する際の5つのステップについて紹介します。
デザイン思考スタンフォード大学のハッソプラットナー・デザイン研究所が提唱している、デザイン思考の5ステップが広く知られています。
- STEP1:共感(Empathize)
- STEP2:問題定義(Define)
- STEP3:創造(Ideate)
- STEP4:プロトタイプ(Prototype)
- STEP5:テスト(Test)
それぞれのステップについて詳しく見ていきましょう。
STEP1:共感(Empathize)
「共感」はデザイン思考に限らず、どの分野の商品開発でも核となる部分です。ユーザーのニーズを知り、生活環境や行動について深く理解する必要があります。そのためには、以下の手順をふんでいきましょう。
- 観察する:アンケート調査やインタビュー調査などで、ユーザーの行動を分析・観察しましょう。
- 関わる :双方向のコミュニケーションを取り、ユーザーの「なぜ」を知りましょう。
- 見て聞く:上記2つを組み合わせて思考や行動にまつわる情報を収集します
アンケート調査、インタビュー調査について詳しくしりたい方は、下記コラムをご覧ください。
STEP2.問題定義(Define)
「STEP1:共感」で得た情報を参考にして、生活者の問題(ニーズ)を定義します。問題を定義することで、プロダクトデザインに一貫性が生まれ、目指すべき方向性やコンセプトが固まってきます。
生活者のニーズに加え、自社の位置や目標など複数の視点から分析を行い、適切な問題定義を行いましょう。
STEP3.創造(Ideate)
「STEP2.問題定義」で定義した内容を参考にして、商品コンセプトを創造していきます。アイディアを具現化する最初の段階である創造は、コンセプトをただ考えるだけでなく、刺激をもたらす材料を上手く使うことが重要です。このフェーズでの作業は、
- アイディアの具体例やミッション作成をする
- プロトタイプをイメージしながらアイディアを固める
- マインドマップなどのフレームワークでビジュアル化する
などがあります。
「STEP2.問題定義」「STEP3.創造」のステップを行う手法として「ワークショップ」の実施を推奨しています。ただし、普通のワークショップではなく、部署や役職などの垣根を超えた「共創型ワークショップ」の実施です。重要なのは「生活者の問題(ニーズ)」からアイデアを固めることであり、そこには「商品開発部じゃないとできない」といった制約はありませんし、ある意味でのバイアスもかかりません。
STEP4.プロトタイプ(Prototype)
「STEP3.創造」で想像したコンセプトを、プロトタイプに落とし込んでいく段階です。
ここで重要なのは、1つのプロトタイプに時間と予算をかけないように意識することです。
低い予算でかつスピーディにプロトタイプを試作することで、結果的に投資のリスクが抑えることに繋がり、施策➡改善のPDCAを効率的に行うことが期待できます。
STEP5.テスト(Test)
「STEP4.プロトタイプ」で施策したプロトタイプの検証をし、前述したようにPDCAを回していく段階です。このステップは、プロトタイプの改善策と、より明確なユーザーニーズを知るためことを目的としています。
テストまで来たら完了というわけではなく、問題点をクリアするためプロトタイプとテストのステップを何回も繰り返すことが重要です。具体的な方法としては「STEP1:共感」同様、アンケート調査やインタビュー調査などが挙げられます。
このステップを行う中で、「STEP2.問題定義」から見直すという結論に至る可能性もあります。
しかし、良いデザインを生み出すために欠かせない過程なので、妥協せず取り組み続けましょう。
■デザイン思考を取入れたマーケティングフレームワーク「インサイト・ドリブン」のご紹介
マーケティング会社であるネオマーケティングでは、デザイン思考を取入れたマーケティングソリューションサービス「インサイト・ドリブン」を提供しています。「STEP1:共感」から「STEP3.創造」を中心にご支援し、商品コンセプトの決定まで伴走させていただきます。ご興味のある方は下記のお役立ち資料をご覧いただき、本サービスを知っていただければ幸いです。
デザイン思考を取入れた企業事例紹介
デザイン思考について興味はあるけど、いきなり取り入れるのは不安という方に向けて、前述した弊社のサービス「インサイト・ドリブン」に取り組んでいただいた企業様の事例をご紹介します。デザイン思考を取入れて、どのようにマーケティング施策に活用したかについて、インタビュー形式でお話いただきました。ぜひご覧ください。
①株式会社セブン&アイ・ホールディングス様
<事例概要>
- 課題:様々なカテゴリーのブランディングを行っている中で、競合他社のPBと「同質化」しているという課題
- エスノグラフィーを実施したことで、これまで見えてなかった発見があった
- エスノグラフィーで得た情報を、ワークショップでインプット・意見交換をして今後の方針を決定した
- 結果、課題を持っていたカテゴリーのリブランディングのヒントを得ることができ、商品開発に活用することができた
①清原株式会社様
<事例概要>
- 目的:ユーザーからの「直接買いたい」という要望に応えるべく、D2Cサイトの立上げをする
- ネットアンケートでの市場調査、その結果をもとにデプスインタビューを実施。
- 上記で得た情報を基に、社内でワークショップを実施
- キャッチコピーやボディコピーの作成、写真撮影を経てD2Cの運用をスタート。
デザイン思考のメリット・デメリット
最後に、デザイン思考を取入れる際のメリット・デメリットについて、簡単にご紹介します。
■メリット
- 潜在ニーズの発見に適性がある
- 不確実性の高い状態でリスクを管理できる
- チームや組織の共通言語として活用できる
- 妥当性のある定性調査の実施が可能
既にお伝えしたように、デザイン思考というのは「課題解決のための思考法」つまり「顧客体験の最適化を図るマインドプロセス」です。そのため、必然的に「生活者の行動はどのような思考から生まれたのか」という、本人も気付いていない「潜在ニーズ」を発見することにフォーカスしています。
また、潜在ニーズを発見するということもあり、少ない対象者を深く理解するための定性調査との相性は非常に高いです。しかし、対象者のリクルーティングは絶対に失敗できないので、その点は留意しましょう。
■デメリット
- 技術開発には向かない(ユーザー候補の発見には活用可能)
- 高い学習意欲が前提
- 関係者同士の継続的な相互貢献が不可欠
- 日常業務と違う行動原則
デザイン思考は商品開発には適性はありますが、技術開発には向いていません。理由としては、技術開発の場合は、潜在ニーズから導き出されるのは「どのような技術が必要か」ではなく「どのような商品・コンセプトが必要か」です。言い換えると、潜在ニーズに応える商品が開発できる技術を保有しているのは前提であるということです。
デザイン思考をマーケティング、延いては商品開発に活用するということをまだ実践されていない企業様は多いと思います。これまで体系化された順序に沿って行ってきたマーケティングの方法を変えるわけですから、取入れるのは容易ではありません。そのため、学習意欲は求められますし、社内及び関係者同士の相互理解も必要になってきます。
まとめ
デザイン思考というと、「感覚的でセンスが物を言う」と考える人も少なからずいます。
しかし実際は、本記事でご紹介した通り、ユーザーが求めているものを客観的に把握して実用的な製品を作るために役立つ思考プロセスなのです。トライ&エラーを繰り返す泥臭いやり方であるとも言えるデザイン思考ですが、製品開発や事業の展開戦略に役立ててみてはいかがでしょうか。
また、ネオマーケティングでは、デザイン思考を取入れたマーケティングソリューションサービスを提供しています。商品開発にデザイン思考を取入れたい方や、どのような形でマーケティングに落とし込まれているのかについて、ご興味のある方はぜひ下記のお役立ち資料をご覧くださいませ。